戦後人間の歴史の勉強

 今日はいわゆる「終戦記念日」。その年に生まれた子どもは、もう67歳である。
 これだけの時間が経過してもまだ、戦争中に起こったできごとがすべて明らかにされているわけではない。今なお新しい事実が調査され、徐々に公にされてきている。
 「トレイシー」というのは、人の名前だが、台風で有名なわけではない。じつは、日本兵捕虜秘密尋問所の暗号名だった。
 アメリカは真珠湾攻撃を受け、日本との開戦に踏み切った直後から猛然と日本についてのあらゆる情報収集に着手する。
 そのためには、日本語という異民族の不可解な言語を理解しなければならず、そこにまず資本と人材を投入した。
 そして、新鮮で重要な情報を得るために、日本兵捕虜を積極的に利用することをおしすすめ、一般捕虜収容施設とはべつに、えらばれた捕虜を尋問するためのとくべつな施設をつくった。
 それが「トレイシー」である。そこを舞台におこなわれた、捕虜からの情報の引き出しは巧妙をきわめ、しだいに日本軍の極秘事項は丸裸にされていった。
 この「トレイシー」の全貌を調査し報告したのが、『トレイシー/日本兵捕虜秘密尋問所』(中田整一 著/講談社文庫/2012年)である。
 ひとことでいえば、アメリカ恐るべし、である。圧倒的有利な国力を保持しながら、それでも徹底した戦略を敷いて敵と向かい合った当時のアメリカに対して、稚拙な戦略と精神論で戦おうとした日本との差は、すでに勝負ありのレベルだった。
 ところでこの「終戦記念日」だが、連合国側は9月2日としている。つまり、日本が米戦艦ミズーリ号において降伏文書に調印した日である。
 当然、公式にはそっちだろう。しかし、日本は8月15日としている。
 そのへんの事情を解き明かしているのが、『戦後史の正体/1945-2012』(孫崎亨 著/創元社/2012年)である。
 この本は「米国の意向」という視点から考察した日本の戦後史であり、平易な文章はとてもわかりやすく、そしてなによりも内容が刺激的でスリリングである。
 歴史に学ばなければいけない、とはよくいわれることばだが、このような労作にもふれられているように、日本は何も変わっていないのではないか、と思わざるをえない。(*_*)
(photo:天狗平から剣岳遠望)