山へ行く人

 「山ヤ」っていうことばがある。
 僕の解釈でいえば、「登山家」や「アルピニスト」より格下的イメージの登山者のことである。とくに派手な経験や記録を持っていないが、とにかく山が好きである。
 有名登山家が、へりくだって自分のことをそう呼ぶこともあるが、多くの場合、山が好きな人間が自嘲気味に、あるいは適当な呼称がないために自分(または第三者)をそう呼ぶのである。
 それで、僕の場合は「山ヤ」だろうか。
 山岳部や山岳会の経験がないから、登山の技術はほとんど自己流である。情報や知識はさまざまな媒体から得てきたが、実践テクニックは経験にもとづくものでしかない。
 その経験だって休日登山家の域を出ず、一回の山行は日帰り、もしくはせいぜいが山小屋3泊までである。
 若いころは無雪期を中心に、それでも月に2回ぐらいは山へ向かったが、トシとともに下界での雑用が多くなったりして、年間山行は減っていった。最近では、前回書いたようにとんとご無沙汰であった。
 それでも、自分のことを「山ヤ」だと思っている。おそらく「山ヤ」の定義は、3っ星ホテルのように間口が広いのである。
 では「山ヤ」の最低条件とは何だろう?
 自分(およびメンバー)に合った山行計画が立てられること。自分(およびメンバー)の力量が把握できること。山行に合った装備を準備できること。地図を使いこなせること。リスク回避ができること。
 まあそんなところだろうか。しかし、予想外の残雪で道が不明瞭だったり、広いガレ場でガスに巻かれたり、雷雲に囲まれたり、メンバーの足が異常をきたしたり、途中でビールを飲んだメンバーが歩けなくなったりしたこともあった。
 山では想定外のことにみまわれる。リスク回避も限界はあるが、それでも山に向かってしまう。それもまた「山ヤ」なのだろうか。(-。-;)
(photo:ゴゼンタイバナ。白い花は難しい)