日本とベトナムを繋ぐもの

 ベトナム最大の都市、ホーチミン市に「戦争証跡博物館」という施設がある。
 いわずもがな、アメリカとの戦争をあらゆる角度から検証し、その実態をできる限り伝えようとこころみる博物館である。
 10年ほど前にはじめて訪れたときは、せまい敷地につめこむようにいろいろな展示がなされていた。それから5年後ぐらいに再訪してみると、施設がととのえられ館内がゆったりとしたスペースに変わっていた。
 しかし、入れ物が変わっても中身は基本的に変わってはいない。まあしかし、こういうテーマの施設だから、見てまわって愉快になるものではない。とくに、体調が悪いときには避けたほうが無難である。
 戦争を知らない者にとってほとんどの内容が衝撃的なものだが、そのなかでもアメリカ軍が撒いた枯れ葉剤の影響で奇形となった胎児の、おびただしいホルマリンづけの姿が目に焼き付いてしまった。
 枯れ葉剤。べつのいいかたをすれば、除草剤である。
 現在も日本全国、広く普及している。現代農業、機械化農業に欠かせないこの “魔法の薬” なくして日本の農業は成り立たない、とさえいわれている。
 我が家も農家であり、父親は死ぬまで稲作をつづけてきた。第2種兼業農家に追い込まれてしまっていたが、農地を守り日本人の主食を作りつづけてきた父親も、やはり除草剤にたよらざるをえなかった。
 というか、父をはじめ農家の人々は除草剤を “悪い薬” と思っていなかったようである。しかし、今でも基本的には変わらない。
 無農薬有機栽培がどれほどたいへんか、ということを農家の人たちは知っている。僕も農家の端くれにつらなる者として、そのことは容易に想像がつく。
 そろそろ田植えのシーズンである。集落の農道や水田のあぜ道で、除草剤を散布する人をよく見かける。気のせいか少し楽しそうである。
 ある種の破壊行為はストレス解消となることはたしかだ。作業内容の是非はともかく、そんなことをいうと、一生懸命仕事をしている人にしかられそうだが。
 しかしさすがに、中国で見たような裸同然で作業している人はいないが、それでもやや無防備に思えるのである。
 政府は、日本企業のベトナムへの原発輸出を決めたようである。放射能とはレベルがちがうとはいえ、枯れ葉剤で国土を汚染された過去があるベトナムも、核に対して少し鈍感ではないか。
 それよりなにも、日本政府の鈍感さ、というか節操のなさにはあきれかえる。しかもそれは他国の原発の問題ではない。条件として、放射性廃棄物を日本が引き取る可能性があるのである。(-_-;)
(photo:ヒメオドリコソウ。庭にて)