ソリストの矜持

 「ラ・フォル・ジュルネ 金沢/熱狂の日・音楽祭」がまた近づいてきた。
 イベントの趣旨は省略するが、5回目の今年はメインテーマが「サクル・リュス(ロシアの祭典)」である。
 一般庶民にとって何かと敷居が高く感じるクラシック音楽を、気軽に楽しむことができるこの企画はとてもいいと思う。
 金沢ではOEK(オーケストラ・アンサンブル・金沢)が中心となるが、もちろん内外のプロ演奏家や地元のアマチュア楽団・演奏家もたくさん参加する。無料のコンサートがあちこちで催されるところも、粋なはからいである。
 文化にかかわる事業や予算がどんどん削られ後退し、文化的なものに接する機会や余裕を奪われていく今の僕たちは、せめてこういうイベントを盛り上げ大切にしたいものである。
 まあ、なにもここで「ラ・フォル・ジュルネ 金沢」のPRをしなくてもいいのだが、じつは昨夜、OEKメンバーのヴァイオリニスト、原田智子さんのソロリサイタルに行ってきたのである。
 演目は、かねてより彼女が取り組んでいるJ.S.バッハ無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ。ビッグイベントをひかえたこの時期、過密スケジュールのなか、よくぞここまでハイレベルに昇華した演奏を聴かせてくれるものだ、と感嘆した。
 あまりの心地よさに、いつのまにか夢のソナタ……彼方か。客席には、そんな方もおられたような気がしたが、ソロリサイタルをかさねてきた彼女にはずいぶんと固定ファンがついている様子である。
 僕たちは小さいころから、いわゆる “学校クラシック” を聴いて成長してきたわけだが、クラシックといえばたいがい有名でポピュラーな楽曲どまりである。
 しかし、プロ演奏家の挑戦的で意欲的なこころみは、クラシックの深淵を垣間見せてくれる。ときどきは、そんな深淵に落ち込んでしまって船をこぐこともあるが、それもどこかうまい酒で気持ちよく酔ったような感覚である。
 昨夜は、そんな余韻で演目は終了したが、彼女のアンコールのこころみがまた挑戦的であった。(^^ゞ
(photo:小さいけれど、オオイヌノフグリ