知りたくないが、知りたい

 ガイガーカウンターといえば、いかにもここは危険ですよ、といわんばかりにガリガリと検知音を発する高価な機械、というイメージがあった。
 でもそれは僕たちには関係なくて、どこか遠い国で専門家たちが使うものだ、と思っていた。
 ところがまさかこの国で、ガイガーカウンターのような放射線測定器が、一般の人にまで必要になる、あるいは大量に売れるとは思ってもみなかった。
 当然、専門的な機器なので当初は種類も少なく、価格も高かった。一般人が入手できるような国産の機械もなかった。
 ところが今や、国産も含めてそうとうな種類が出回っている。しかも、測定方式も価格帯も千差万別である。とはいえ、こういう機械が一般人まで普及する国というのも悲しい。
 僕も最近廉価なものをひとつ手に入れた。もう少し早くほしかったのだが、ほんとうに必要な人たちにいき渡るまで待っていた。
 買ったタイプは、あいにくガイガーミュラー方式ではないので、ガリガリ音は出ないが、シリコン半導体(フォトダイオード)を利用した、手のひらにすっぽりおさまるコンパクトタイプである。
 測定器というのは、測ったからといって問題が解決するわけではない。とくに放射線の場合は、測定器による誤差が大きかったり、場所によってもかなり計測値が変化するので、結局何を信じていいのかわからない。
 ようするに平均値をとれば、その場所の正しい放射線量に近くなるのだが、そうするためには、測定方式がちがう機械を3つほどならべて測るしかなさそうである。
 しかし、そのようなことをあちこちで実行していると、不審者としてたちまち通報されるだろう。買い求めた測定器でさえ、平均値が出るまで最長その場で5分、冬場の雷鳥のようにじっとしていないといけない。十分怪しいのである。
 今は興味半分で家のまわりや中を測っているが、高い値が出たりすると精神衛生上あまりよくないのである。ちょうど、風邪をひいて熱を測ったら、思いのほか高かったときのショックと通じるものがある。
 知らないほうが平和に暮らせたのに、見てしまったのね。といって、娘は鶴になって飛んで行ってしまいました。
 ——という話しなら、悲しいけれどそれでおしまいだが、見てしまっても、今実在する物語はエンドレスである。(T_T)
(photo:福建省泉州市泉港区樟脚村にて)