水郷の町と臭い

 上海市の面積は6,369平方メートル、群馬県大分県とほぼ同じ広さである。
 市の西の端一帯は、江蘇省浙江省と接しており、江南地方とよばれる水郷地帯を形成している。
 「朱家角」という町は、上海市に属する江南の水郷古鎮のひとつである。中心部から高速バスで約1時間。ここでは、近未来的な上海の都市イメージとはまったくちがう、上海のべつの姿を見ることができる。
 バスを降りた瞬間から、現代中国の田舎町の風情が濃厚に感じられる。さしずめ、東京とはいえ離島の村落に来たような感じだろうか。
 明の時代から形作られた町は、川(運河)に沿って並んでいる。せまい石畳の道の頭上に、階上がせり出しているような建物が延々とつづいている。
 もちろん階下は商店である。民芸品や雑貨をあつかう店はここでも多いが、食品を売る店がやたら目につく。たとえば、いろいろな肉を荒っぽく加工したものを並べている店が少なくなく、売り物は日本人の感覚で衛生管理を気にし出すと、口にするのをためらうようなシロモノも多い。
 様々な食品店から発する、そんなあまたの臭いが通りに充満する。冬の冷たい空気のなかでは、それも多少おだやかに感じられるが、はじめて訪れた10月の暑い日の臭気は暴力的でさえあった。
 水郷、といえば涼しげでさわやかなイメージである。人によっては、清流を思い浮かべるかもしれない。
 しかし、人間の生活圏にある古いものを、美しいイメージ通りに保存、維持・管理することはなかなかむずかしい。環境やインフラ整備にお金と時間がかかる。
 旅行者の身勝手にすぎないが、僕は中国のこんなごった煮のような人の渦が好きである。まあ、体調が悪いときはなかなか入っていけないが。
 同行してくれた友だち夫婦には、ちょっと気の毒だった。少し反省している。(__;)
(photo:朱家角にて。10月23日の写真も参照してください)