母子の事情

 中国の一人っ子政策は多くの “小皇帝” を生みだした、といわれている。どうしても子どもを我が儘に育ててしまうらしい。
 南京からの帰りの高鉄(中国の新幹線)車内では、発車間際に、僕の席の前方のほうでいい争う声が聞こえた。
 見ると、中年女と若い女が口角泡を飛ばし、今にもつかみかからんばかりの勢いでやりあっている。こういうシーンには慣れっこのはずの車内の中国人も、いっせいに注目している。……それくらいの激しさだった。
 どうも原因は、若い女の息子が前に座っていた中年女の座席を蹴った、ということらしい。どの程度かわからないが、とにかく2人の口論はおさまりがつかない。
 そのうち中年女は、けっ、という表情で若い母親をにらむと、席を立って行ってしまった。しかし、これで終わったわけではなかった。彼女は乗務員を連れてもどってきた。
 まあ、乗務員にしてもどうすることもできず、口論の第2ラウンドがはじまったにすぎなかった。
 福州へ行ったときの飛行機では、若い母親と小学校低学年ぐらいの男の子が、ずいぶん遅れて機内にかけ込んできた。飛行機は3人がけのシートが両側に並ぶタイプで、通路側の僕のとなりと通路をはさんだ反対側の真ん中のシートが空いていた。
 予感はしたが、やはり2人はその2つの離ればなれの席らしく、搭乗券をしきりに確認していた。そして、母親は何のためらいもなく、両側の窓側と通路側に座っている人たちに次々と、席を換わってくれるようもちかけた。僕も通路側に座っていたが、日本語の本を読んでいたせいなのか、なぜか無視された。
 その母親の態度がもう少しへりくだったものであったら、応じてくれる人もいたかもしれないが、僕の見たかぎりそうではなかった。
 結局2人は離れて座ったのだが、お互いに身を乗り出して話したり合図を送ったりして、うっとうしいことこのうえない。いっそ席を譲ってしまおうかと僕は思ったが、機は離陸の体勢に入ってしまった。
 僕のとなりに座った男の子は、水平飛行に入るとまもなく眠ってしまった。ところが、窓側の学生らしい若い女性にもたれかかった状態になった。軽食が配られるころには目を覚まし食べはじめたが、結局、その女性や僕が男の子の世話をするはめになり、席を譲らなかったことを後悔した。
 程度の差はあるが、子どもを溺愛する親と、我がもの顔でふるまう子どもの姿はときどき見かける。イチャイチャのカップルとどこか通じるところもあり、他国のことながら少し心配である。(__;)
(photo:上海市内田子坊にて)