南京の休日(1)

 南京に来ている。上海から250kmぐらい、高速鉄道で1時間あまりだった。
 南京といえば、歴史をよく知っている日本人にとっては、トゲのようなひっかかりを感じる地名だろう。観光地として魅力的ではあるが、人によってはあまり足が向かないところかもしれない。
 中国には反日感情がある。歴史的ないきさつを考えてみれば当然のことだろう。でも、僕は一年あまり中国に住んでいて、そんな反日感情の矛先が自分に向けられることがあるかもしれない、と覚悟していたが、そんなことは一度もなかった。
 あの尖閣騒ぎのときでさえなかった。もちろん表面的にはだが。ただ最近、背筋がヒヤリとしたことがあった。
 福州のホテルに宿泊したときに、部屋まで朝食券を渡しにきてくれたおばさんの、敵意に満ちた目には一瞬寒さを感じた。そのホテルで粗相をしたわけではない。
 自覚したのは、その一度だけである。
 尖閣で英雄になった、あの船長が住む晋江市の漁港へ、知らなかったとはいえ行ったときにも、そんなことはなかった。もっとも、観光地でもないそんな田舎町を訪ねる日本人はいないと思うし、僕も学生といっしょだったから問題は起こらなかった。
 今日の南京は、小春日和のとてものどかな日だった。国慶節の大型連休が終わったばかりとはいえ、『侵華日軍南京大虐殺遭難同胞記念館』はたくさんの人で混雑していた。
 日本では、いわゆる「南京大虐殺」はなかった、といまだに主張する人たちもいるが、UFOがいるいないという話しじゃあるまいし、歴史の事実はかんたんに曲げられない。
 巨大な記念館は、日本軍の蛮行を徹底的に検証し調査し、そしてその事実を、これでもか、というほどいろいろな角度から訴える。館内のすべての展示、モニュメントの解説には、中国語のほかにすべて日本語と英語に訳されているので理解できる。
 いくぶん、今の政府の政治的なプロパガンダの臭いはするにしても、加害者としてはグウの音も出ない。
 正直にいえば、日本人としてあまり居心地がいい場所ではない。中国人といっしょに見てまわっていても、そこここから「リーベン(日本)、リーベンレン(日本人)」というささやきが聞こえる。
 そのたびにドキリとするわけではないが、余計な汗をかいたことはまちがいない。(>_<)
(photo:記念館にて)