晩ご飯の情景

 大きな大学の周辺は食事する場所に困らない。大学を取り巻く通りには、たくさんの店が軒をつらねている。
 学生も国際色豊かであり、白人系の若者もけっこう見かける。そのせいもあるのだろうか、ピザなどをあつかう欧風の店もけっこう繁盛している。
 ひとり暮らしではどうしても食事がかたよってしまいがちだが、このあたりには、総菜を選んで自分好みの定食をセットできる店もあるので重宝する。僕もよく利用する。
 あるときそんな店で、いつものように自分の晩餐を取りそろえて、4人がけのテーブル席についた。その日は体調もよかったので、ビールも1本つけた。
 ビールをグラスについでいると、中学生くらいの女の子がひとり、トレイを持って通路をはさんだ僕の反対側のテーブルについた。ポニーテール風の髪にメガネがよく似合う子だった。でも、少し沈んだ硬い表情をしていた。
 この手の店は、一人で食事をする人がけっこう集まってくるので、ひとり者にとって気が楽である。とはいえ、小さな女子がひとりで食事、というのも少し目立つものだ。
 ちらりと食卓をのぞくと、ひとりのわりにはおかずの品数が多い。はは〜ん、誰か家族を待っているのかな、と思っていたが、女の子は周りを気にするように小さくなって、ぼそぼそとごはんを食べはじめた。
 僕の背中の席では、若者グループがにぎやかに食事している。何の話題で盛り上がっているのかよくわからないが、間断なく会話がつづく。多少うるさいくらいだ。
 ビールを飲みぼんやりしているうちに、女の子のことは僕の視界から外れてしまった。
 名前はわからないが、日本の野菜炒めのような料理の味付けに、少し違和感を感じながら食べていると、通路の向こうからビール瓶とグラスだけ持った中年のサラリーマン風の男が、きょろきょろあたりを見回しながらやってきた。
 その男はあの女の子に気がつくと、まっすぐにやってきて同じテーブルに腰をおろした。女の子は顔を上げると、さっきまでの緊張した表情が笑顔に変わり、生き生きと話しだした。男はグラスにビールをつぎながら、一言ふた言かえしている。
 僕は食事を終え、店をあとにした。宿までの足取りが妙に軽くなっていた。(^_^)
(photoお休み)