空っぽ頭がシビレる日

 宿題なんだっけ? と、若いクラスメートにそっと訊いた。先生の中国語がわからなかったのである。
 人間ができている彼らは、哀れむような顔もせず、自分の親父のような男にやさしくおしえてくれた。
 どうも僕はクラスの問題児になりそうである。ま、聴解能力が低いのは致命的かもしれないが、今日まで予習復習はほとんどやってこなかったので、なんだか異界に放り込まれ、ただなす術もなく中国語のシャワーを浴びていたような感じである。
 いい訳してもしかたがないが、とにかく毎日6時間授業に出るだけで、その日のシャッターが自動的に下りていたのである。
 そういえば、ビールを飲むことさえ忘れていた。脳の中心部が中国語でかき乱され、他のことを考える領域までシビレてしまったからである。
 そして大事なことを忘れていた。この空っぽ頭には、勉強してファイルしていく領域がほとんどない、ということを。
 半世紀以上も生きてきたために、ろくに役に立たないことばかりが脳に蓄積して、容量がいっぱいなのであった。とくに空き部屋にしてあった、勉強をしてその成果を保存するような領域が、いつのまにかガラクタ置き場にされていたのである。はぁ〜。
 しかし、尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。泉州の教え子たちからは、五星紅旗を振って送られた身である。国のお袋からは、なじられて出国してきたのである。
 昼休み、近くのイタ飯屋に行くと欧米人系の学生がたくさんいた。なかには、ピザを食べながら漢字の練習をしていたり、CDを聞きながらディクテーションの練習をしている学生がいる。
 僕たち日本人は、漢字を知っているから彼らにくらべれば多少有利だろうが、そんな勉強の姿勢には感心させられる。
 まあこんな調子だが、少しはペースがわかってきた。登校拒否にならないように、ちっとはもがいてみようと思う。(;_;)
(photo:豫園にて)