你知我知。加油吧!

 寮を引きはらうので、連れ合いに来てもらった。で、ここ数日はホテル暮らしだが、泉州での日々も終わろうとしている。
 今日も朝から蒸し暑いが、こうやって迎えていた日常も、もう日常でなくなってしまった。この地に多少根を張ってしまった者として一抹のさみしさを覚えるのは、やはり少なからず感情移入してしまったからにほかならない。
 それは、人間の感情としてごく自然なものかもしれないし、あるいは、いずれ帰ってしまう者の甘い感傷なのかもしれない。まあ残念ながら、港みなとに女をつくり……などという艶っぽい話しなんかではまったくない。
 新しくあけたベルトの穴を数え、過酷な気候で髪に見放されたことを思い、さらには、ある種ルール無用の市民社会をかえりみると、どこからそんな後ろ髪を引かれる思いが生まれてくるのだろうか。
 それはやはり、そこには僕たちと同じ人間がいた、ということにほかならない。
 生徒たちにおしえたが、それ以上におしえられた、などという妙にへりくだったいい方は好きではない。しかし、彼らとの交流から得たものは、新米の日本語教師としては、計り知れないのである。
 僕がかかわった生徒たちは今夏休みである。多くの者たちはアルバイトに精を出し、また多くの者たちは長い休みでなければできない勉強をしている。
 泉州晋江空港から飛び立った飛行機の眼下には、そんな生徒たちが生まれ育って、今懸命に生きている町がひろがっている。
 若い彼らの前にはいろいろな道が開けているが、自分の道はいったいどうなるのだろうかと思い巡らせていると、その心のなかを見透かしたように、機は厚い雲のなかに入っていった。(m_m)
(photo:泉州の夕暮れ)