快適な我が家とは?

 ーーセキュリティに考慮した、マンションの頑丈な門を開ける。3階まで上がって廊下を歩く。床は木目のリノリウムだろうか。
 部屋の前に立つ。ドアは、日本のアパートによく見られる、無機質で重い金属製のものではなく、落ち着いたベージュ色の木製扉だ。
 ドアを開けるとかすかに、布団を干したときのような香ばしい匂いがした。窓辺まで行くと、外には涼しそうな木立が見える。そこで、鳥たちがさえずっている。
 部屋は天井が高く開放感いっぱいだ。一面白壁である。重厚なベッドは気持ちよさそうだし、そばには娯楽椅子まで置かれている。
 一人用には十分な容量の冷蔵庫、衛星放送が受信できる大型テレビ、調理用の電熱器、電話、そして木製の大型クローゼットが目にはいる。もちろんインターネット回線は使いほうだいだ。
 日差しのよいコーナーには、引き出しがたくさんある大きな机と回転椅子。思わず、窓を開けて両手をひろげたくなる。
 洗面所の扉を開けると、タイル貼りの室内に、トイレ、シャワー、洗面台などが簡素に配置されている。
 ーー愛想もくそもない重い鉄扉を開ける。薄暗くジメジメした階段を3階まで上がる。床は、日本人に気を配った木目だが、感触は固くて冷たい。
 部屋の前に立つ。ドアは小学生でも蹴破れそうな、木製の軽い素材だ。隙間だらけである。
 ドアを開けると、ほこりとカビの匂いが鼻腔を刺激する。窓辺からは木立が見えるが、こんもりとした茂みがややうっとうしい。
 部屋はやたらに天井が高く、小さなエアコンはいつもしんどそうだ。住人もつらい。あいつは冬も苦手らしい。
 一面の白壁は、何の手がかりもなく、壁を利用するには、ミニハンガーを貼り付けるしか方法がない。しかし、少し重い物を下げると白壁ごとはがれるので始末がわるい。そして、天井近くでは黒い壁に変わっている。おそらくカビだ。
 冷凍庫が独立していない冷蔵庫。ブラウン管タイプのやたらに大きて重いテレビ。電熱器と簡素な調理台はあるが、どこで流しをすればいいのか。
 すぐに混線する固定電話。底がぬけるクローゼット。スピードが遅いインターネット回線。肘掛けが異様に長くてじゃまで、座面が破れている回転椅子。
 窓の内側には鉄格子。火事でも起きると不安になる。その窓を開けようとするとたいへんだ。だいいち、桟がすでに朽ちていて窓枠ごと下に落ちるだろう。
 シャワーとトイレは床が一体である。いつも便器にまでシャワーしてやっている。足もとに水がたまる。排水溝に向かう傾斜がおかしい。そして、すぐにつまる。洗面台の鏡の下の小さなトレイは、なぜか手前に向かって傾斜がついている。
 ーーなかなかオツな寮だった。これでも住めば慣れる。逃げ帰ることができる我が家だった。小さな地震でも崩壊しそうな古い建物だが、費用は学校持ちなので文句はいえない。
 明日で学校との契約は切れる。(^_^;
(photo:カレーを作って食べた。ごちそうになった)