カオスと濃縮ジュース

 未知の領域だったから想像もつかなかった。ーーここでの仕事や生活のことである。
 一年前の昨日の夜おそく、僕はこの地に降り立った。期待や不安という気持ちよりも、なんだかえらい所に来てしまったな、という印象のほうが強かった。
 ところが、あっという間に地球は太陽のまわりを一周してしまった。僕は、泉州を10周ぐらいしてしまったのだろうか。……まあそのくらいあちこち歩きまわった。当然、仕事はちゃんとした。
 じつは、なんだか夢を見ているのではないか、と思うのである。それくらい、夢中で駆けた一年だったといえるし、昔よく出回っていた濃縮ジュースのような、密度の濃い一年だったような気もする。
 というか、あきらかに濃縮ジュースであった。それが、異文化のなかに生きる、ということなのだろう。
 異文化というのは、まずは刺激的で、未知な分だけ危険な匂いもする。そして、どこか甘美でさえあるのもおもしろい。
 泉州は、カオスといっていいくらい混沌としていて、無秩序が存在する世界である。得体の知れないエネルギーが人々から発散され、街に充満している。
 そしてここでは、過酷な気候と生活環境を甘受しなければ、とても生きていくことができない。
 今の中国は、お金さえあれば快適で上等な生活が約束される。しかし、多くの人々は日々エネルギッシュに、生活のあれやこれやに奔走している。
 庶民の生活に帆走して一年を過ごすと、あたりまえだが、見えてくるものがある。自分に染みついている文化と異文化との差異はいうまでもなく、その文化が反映する人々の内面や世の中の事象までつながって見えるようになるのである。
 もっとも、たったの一年ではまだまだ謎だらけである。そんなかんたんにわかってたまるか、と中国社会からは嘲笑されそうだ。歴史のある中国社会はかなり奥深い。
 まあつまり、とば口に立った程度である。しかし、たまには100%のストレースジュースも飲みたくなってきた。(^-^)/
(photo:出張授業に通った通勤路にて。雨の日はぬかるみ)