冷や汗を重ねる

 「重ねる」と「繰り返す」はどうちがうんですか? と聞かれた。これは境界があいまいだけど、一応の説明はする。
 「……なので、『失敗』の場合は『繰り返す』を使ったほうがいいですね」と答えると、「先生、辞書には『失敗を重ねる』になっていますよ」とくる。
 もちろん状況によってはまちがいではないので、その旨また補足する。しかし、学生の頭のなかからはまだ「???」がとれていない。
 中国で出版されている日本語の辞書には、あきらかなまちがいも多いが、この場合はまちがいとはいえないので、対応に苦慮する。
 「重ねる」の場合は、年月や歳のように、重みと時間の経過を表現したいときに使う場合が多い。
 体調が悪い学生に対して、「家に帰ってみたらどうですか?」という回答があった。
 「〜たらどうですか」と「〜てみたらどうですか」の使い分けである。話し手がその提案を最善だと思わないときは、後者である。
 まあこの場合、医者へ行ったほうがいいかもしれないので、最善ではないかもしれないが、しかし、明らかに具合が悪そうだから、〜てみたら、ではおかしい。
 そういう、微妙な心理状況を理解して使い分けるのは、かなりむずかしい。
 学生は、明確な使い分けを求める(そのほうが使いやすい)が、そうはいかない場合がいっぱいある。その部分を、まあどっちでもいいですよ、と答えると納得できないようだ。
 おそらく昔、そういうことばができたときは明確に使い分けていたのだろうが、時間とともにゆらぎ始めてあいまいになったものだろう。
 「今日は楽しかった」は中国語では、「今天很愉快」「今天很開心」などいろいろないい方がある。ところが、学生にきくと「開心」だという。状況がそういう単語を指示するのか、あるいは学生の感性なのかわからない。
 辞書を引くと、「楽しい」の項目にはいっぱい単語が出てくる。明確な使い分けをおしえてくれ。(^_^;
(photo:樟脚村にて)