平気であやまらない人々

 道を歩いていて肩がぶつかった。僕はよけようとしたのに、相手がさらに寄ってきてぶつかったのだ。
 「どこに目つけてんだよ、あん?」と中国語でいおうとしたが、文法を頭で考えているうちに、相手は知らん顔でそのまま去って行ってしまった。
 まあそんな乱暴な口のきき方はしないけれど。せいぜい、怒りのこもったジトジト視線をやつの背中に照射するぐらいだ。おそらく中国人同士なら、口角泡を飛ばして激しくやり合うことだろう。
 先日は路地の交差点で、自転車のおばさんとバイクのおっさんが、危うく正面衝突しそうになった。僕の目の前である。
 ふたりは、たちまち大声でののしりはじめた。目撃者としては、おばさんにやや非があったように思ったがひるむ気配はまったくなく、半径50mぐらいの周囲にまで轟きわたるような迫力でバトルが繰りひろげられた。
 そういう光景は日常茶飯事ではあるが、そのときばかりは双方なかなか引かず、いつのまにか野次馬まで集まりだした。
 そして結局、お互いいうだけいってしばらくにらみ合った後、けっ、といって別れていった。
 日本人同士ならたいてい、「あ、すみません」「いえ、こちらこそ」「どうも」「いえ、どうも」「いえいえ、どうも」「じゃ、どうも」「あ、どうも」……などといって収束しまうだろう。一戦交えるなんていうのは、よほどのことである。
 そういう中国人のメンタリティーについて学生に聞いてみた。
 彼らの見解は、どうも中国人はたいがいのことではあやまらない、ということだった。程度の差こそあれ衝突するケースが最も多いのだが、一方があきらかに非がある場合でもめったにあやまらないそうである。で、どうするかというと、相手の怒りが収まるまでじっと耐えて待つ、ということだった。
 僕などは気が小さいので、スーパーの店員にさえすぐあやまってしまう。もっとも、日本語で「すみません」などといったところで、けげんな顔をされるだけだが。(+_;)
(photo:バスは手をあげないと停まらない)