上海サンプル(その2)
かつてサラリーマンとして勤めていた会社は、金沢市にあった。繁華街もほど近く、同僚と飲みに行くこともたまにはあった。
安月給の若造が出入りするところなどたかが知れていた。だから、飲み屋街のディープなゾーンにまで足を踏み入れることもなかったが、そこはやはり血気さかんなころ、怪しげな魅力を放つ一角には惹かれるものがあった。
そんなウブなシロートにとって敷居が高かった街のひとつが「新天地」だった。新天地という名前は、時代の流行のように全国的にみられるが、僕のなかのイメージは飲み屋街経験そのままの、いささか隠微で猥雑なものだった。
上海といえば魔都のイメージ。まさしく世界の “新天地” である。ちょうど、スピルバーグの『インディー・ジョーンズ/魔宮の伝説』の冒頭シーンがピッタリである。
ところが現代の上海「新天地」は、そんな僕の染みついたイメージとはずいぶん落差があり、3年前にはじめて来たときには、その感覚の修正に少し手こずった。
つまりは、インディーの世界とはほど遠い、垢抜けしたファッショナブルな街なのである。
その新天地、この3年の間にさらに拡大したようだ。昼下がりには、ここは上海なのだろうか、と思われるほど外国人でにぎわっている。
レストランの服務員の接客マナーだって、明らかに泉州とはひと味ちがう。……比較してはいけないのだった。
大都市には、生活の格差や街の濃淡はつきものである。しかし、その振幅の大きさを見られるのは、旅行者のエゴかもしれないが、とても興味深い。
まあ、上海の点と点を、ちょっと見ただけで上海は語れまい。
変貌する大都会に、今回は浦東空港から地下鉄で市内へ入った。ところが、思った以上に時間がかかったのには閉口した。遅いのである。電車のスピードはともかく、駅での発着がじつに緩慢なのである。
こんなことも日本と比べてはいけないのかもしれないが、まだこれから、という伸びしろが見込めるのも今の中国の勢いなのだろう。(^_^;)
(photo:上海、新天地にて)