返らない、なくしたもの

 若いときはずいぶん欲張りだった。あれもこれもできると思っていた。今すぐできないものは、しばらくは引き出しにしまっておいた。そのころは、引き出しもたくさんあったように思う。
 しかし、いつの間にか、引き出しにしまっておいたものにカビがはえて捨ててしまったり、引き出しそのものをなくしてしまった。
 少なくなった引き出しのなかをあらためて覗いてみると、なんだか「健康」とか「身体」に関係したものばかりが残っている。まあ、そういうネタには事欠かなくなった、ということだろう。
 運動不足である。
 寮と学校の往復だけじゃタカが知れている。せまい学校をいくら動き回ったところで、ハムスターがケージのなかを行ったり来たりするようなものだ。
 授業ではほとんど立ちっぱなしだから、夕方には、精神疲労とむくれた重い足をひきずり、暗い寮の階段を、よいしょなどといいながら這い上がる。
 そして、元気があれば食事に出かけるが、そうでない場合は、自室でビールとインスタント物ですませてしまう。……なんだか、書いていて侘びしくなってくるなぁ。
 そんなんだから、去年の夏に落ちた体重はなかなか元にはもどらず、時間とともに体力もどんどん降下しているように感じる。放っておくと加速度的に低下していくようだ。
 いかんいかん、と思いながらも放置していたら、最近ではよく階段でつまづくようになった。道を歩いていても人をよけ切れなかったり、バイクと異常接近したりする。だいたい、それらの数が多く、たがいの距離が近すぎるのも問題だが。
 せいぜい気候がいいときに、ジョギングでもしたらいいのかなと思うけれど、慣れないことをして心臓マヒを起こして異国で客死、なんていうのもあまり上等ではない。それに、怪しい日本人、と思われても困るし。
 つい先日まで、日中は夏のような暑さだった。今また少し気温は下がっているが、たぶんこれからは天気がよければ暑くなり、運動どころではなくなるだろう。
 冬に備える蟻とキリギリスの話しではないが、夏に備えて滋養強壮しておかなければいけないなぁ。(^_^;
(photo:石獅市祥芝港)