蘇る町の匂い

 香港発ドラゴン航空KA192便の機内で、ネパールの入国カードをくれといったら、空港にあるといわれた。
 多少の違和感を感じながら、便はダッカバングラデシュ)を経由して、深夜のカトマンズ・トリブヴァン空港に降り立った。
 到着ロビーに入ると、円形の小さな記入台に、入国カードやビザ申請用紙が散乱していた。その様子を見ると、なんだかこの国が直面している政治状況を暗示しているような気がして、さきほどの違和感が一抹の不安に変わった。
 空港職員のネームタグを下げた男が近づいてきた。香港から来たのか、ときいてきた。そうだ、と答えると、荷物はこっちだ、と案内してくれた。入国審査の列で時間がかかり、すでに荷物はターンテーブルから下ろされていたのだ。
 男は親切にも荷物をカートに乗せて、審査台まで運んでくれた。終わると今度はまた出口まで運んでくれた。多少の違和感を感じたそのとき、男はニヤリと笑って手を差し出した。
 油断もスキもありはしない。ネパールの空港では、こうしていつもしてやられる。あるときは、出口で荷物をひったくられて勝手に運ばれ、金銭を要求された。
 ホテルからの迎えの者になりすました男に、だまされそうになったこともあった。正規のタクシーチケットを買ったら、よく似ているインドルピー紙幣のおつりをつかまされたこともあった。
 いつも注意しているのだが、やつらの方が一枚うわ手である。いたるところにトラップがしかけられている。僕がスキだらけなのかもしれないが。しかし、ハニートラップはない。あたりまえか。
 とにかくネパールに入国した。なつかしい町の匂いが、過去を思い出させる。あいかわらず暗い町だ、と思っていると、停電なのだ、とホテルからの迎えの青年がいう。
 忘れていた。2年前のことを。電力事情は、依然そのままなのだろう。今の時期は一日平均14時間停電である。ホテルは自家発電でおぎなっているが、それでも限度がある。
 まあ、この国へやってくれば多少の不自由は覚悟しなければいけない。しかし、政治が機能していない状態で、一定の秩序がいつまでもつのか、そっちのほうが心配である。僕にとってネパールは、単なる旅の通過点ではなくなっているのだから。
 常宿のホテル・サンセット・ビューは、ネット環境が進化していた。というか、以前はパソコンを持ち歩かなかったから、気がつかなかっただけかもしれない。
 で、ここカトマンズから記事が送れることになりました。立ち寄ってください。(^_^;
(photo:しばらくはネパールの風景です)