足放せない靴

 自分が気に入っている道具を手入れするのは、ひとつの幸せではないか、と思っている。
 ときどき靴を手入れする。靴はいつだって主人の臭い足に踏まれながら、その足を守っている。健気ではないか。たまには、やさしいことばのひとつももかけなければなるまい。悩みも聞いてやらなければなるまい。
 と思って、先日、靴を一足修理に出した。日本へ帰ってきたらやりたかった。留守中に、家族に頼んで販売店に持ち込んでもらったが、むげなく断られたやつだ。
 しょうがないので、中国からメールで日本の総代理店に問い合わせた。……ほら、やっぱりできるじゃないか。
 あきらめなかったのには理由がある。数年前にも同じメーカーの靴を直した。そのときは、直すことになんの障害もなかったのだ。
 しかし、修理のために、僕の愛靴ははるばるイギリスまで旅をした。15000円かかった。めでたしめでたしではあるが、家人の目は冷たかった。
 足になじんだ靴はなかなか手放せない。おお、この場合は、足放せない、になるのかもしれないなぁ。革の靴は手入れさえきちんとすれば長持ちするし、革もこなれてじつにいい風合いが出て、ますます足になじんでくる。自分の足の一部になるような感じだ。
 僕は、イギリスのクラークス社製の靴を愛用している。自分の足型に合うメーカーなのか、一度履いてから手放せなくなった。カジュアルシーンでは断然クラークスである。
 ときどき山歩きやトレッキングをするが、そちらはドイツのローバ社の靴をずっと使っている。
 最近は日本の靴も優秀であるが、やはり革靴は歴史のあるヨーロッパ勢にはかなわないところがある。
 どこかの失脚した大統領夫人のように、気に入ったメーカーの靴をコレクションしてみたいものだが、そうなると毎日靴の手入れで忙しく、履くひまがなくなりそうなのでやっぱりやめとこう。
 今住んでいる中国の泉州の町には、靴屋街がある。そこには、食指が動きそうな、洗練されたデザインの靴もたくさんある。世界の一流メーカーの靴もそろっている。
 でもよく見るとどこかちがう。sonyがsanyになっているような感じである。さすが中国だ。(・0・)
(photo:暖まるものがいいですね)