A鎮への旅

 ずいぶん変なグループに見えたことだろう。中年も盛りをすぎた男と、高校生のような女子ふたり。実際彼女らは18歳なのだから、高校生の年代である。
 どうも中国の南のほうの人たちは、だいたい小柄だ。くだんの女子も、見ようによっては中学生ぐらいに見えるかもしれない。
 先日、クラスのふたりの学生をガイドに、安平橋というところへ行ってきた。彼女らは、その橋がある町に住んでいるので、月に何回か帰宅する。
 「先生、いっしょに行きましょう」という彼女たちの提案に、僕はすぐ乗った。一度行きたかった所である。これで、移動のあれやこれやの煩わしさから解放されて、しかも現地の案内までしてくれるとあっちゃあ、行かない手はない。
 じつは、こういうことは彼らにとっても、生きた日本語学習の絶好の機会なのである。と、あわてて正当な理由も付け加える。
 安平橋のあるA鎮は、S市の南西30kmぐらいのところに位置している。バスで約1時間である。もちろんバスは、例のかなりくたびれた車体だ。
 「安平橋なんてつまらないですよ」と彼女たちはいう。
 まあそうだろう、若い子たちにとっては。実際、河口というか、入り江の奥に渡してあるその橋は、史跡になってはいるものの、ほかに何もないところである。
 安平橋は、今から900年ぐらい前に造られた、花崗岩の石橋である。以前訪れた洛陽橋(8月16日の記事参照)よりは華奢であるが、そのかわり全長2500mある。今でも人は通行できるので現役だが、往来はさほどではない。
 ちょうど広い掘り割りの真ん中を、木々が茂る堤にそって橋が渡っているように見える。町の喧噪からはなれているので、とてものどかである。
 橋の欄干に腰掛けてぼんやりしていると、学生にせかされた。まあ、キミたちにはわかるまい。
 町にもどると、また喧噪の渦だった。「鎮」という、日本でいえば「町」ぐらいに相当する小さな行政単位だが、このA鎮はじつに活気があって、繁華街も大きい。今の中国の勢いそのままに、人々はせわしなく行きかい、新しいビルもどんどん建っている。
 いつの間にか昼どきになった。小さなガイドたちお勧めの、地元の食堂に入った。おやじは熊のようないかつい男だったが、料理はめっぽううまかった。そして、日本人も面子があるので、ここは何とか支払った。(^_^)b
(photo:橋の途中の東屋?)