染みついた日本

 搭乗口のチケットチェックで止められた。後続の乗客たちが発する奇異な視線を背中に感じた。係員がキーをたたき、なにかを確認している。
 ちょっと緊張したが、すぐに解放された。チケットを訂正され、シート番号が変わっていた。ダブルブッキングだろう。ずいぶんと若い番号になった。
 腑に落ちないまま機内に入って席をさがした。新しいナンバーはビジネスクラスだった。やむをえない、変更を受け入れよう。
 ビジネスクラスのシートに身を沈めると、身体は自動的にオフになった。つまり日本モードに。
 僕は、父親の法事をするために一時帰国することになった。おりしも中国は国慶節で、1日から7連休である。それを利用しての、久しぶりの日本だ。
 中国を発つときは、もうすでに中国に1年ほどいたような気がした。しかし、日本に降り立ってみると、ほんの1週間ばかり旅行に出ていたようにも感じられた。
 つまり、久しぶりといってもたかだか3カ月程度の外国暮らしでは、自分の身体にあんこのようにつまっている「日本」というものは、なかなか変わらないということか。
 現地の生活に順応するまで2カ月かかった。暑さと油と喧噪との戦いだった。何度も挫折しそうになった。ベルトの内側に、だまって穴をひとつ追加した。ういたアバラを数えてみた。よい子は9時になると寝る準備をした。
 でも、日本へ帰りたいと思ったことはなかった。まだ何もなし得ていないからね。
 夜ふけのセントレアから名古屋駅に出た。しかし、家へ帰る手段はもうなかった。ホテルをさがしてとぼとぼ夜の街を歩いた。
 日本語学校の学生たちが思い描く、日本を思い出した。空気がきれい……町がきれい……安全……ふ〜ん。(-_-)zzz
(photo:写真も日本の風景に。さあどこでしょう?)