犬はいぬ。狗はいる

 道を歩いていると、中型の黒い精悍な犬が、僕のわきを急ぎ足で追いぬいていった。ダンナ、お急ぎですか……と声をかけたりはしないが、日常的に往来をけっこう犬が行き来している。
 首輪をつけている犬もいるが、そうでない犬もかなり見かける。それらが人に交じって動き回っているようで、彼らは彼らの社会があるのかもしれない。
 2006年の春、僕はネパールのカトマンズにいた。仕事で行ったのだが、ちょうどネパールの政変とぶつかってしまった。毎日まいにちCurfew(外出禁止令)だといわれ、数日間ホテルにかんづめになった。
 そのとき同行していた大学生の長女が、部屋のベランダから外をながめていて、おもしろいことを発見した。ホテルのすぐ近くに空き地があり、そこに、午後のある時間になると犬がたくさん集まってくるのだ。長女は、犬の集会といっていたが、車座のようにも見えるその光景は、まさにミーティングのようだった。
 もしかしてここの犬も、どこかでひそかに集会をひらいているのかもしれない。しかし、当局がいたるところで目を光らせているので、むずかしいぞ。
 カトマンズの犬は怠惰で、昼間はほとんどあちこちで寝ていた。例の集会だって、めんどうくさそうに三々五々やって来ていた。しかしここの犬はどうだ、現地の人々同様かなり精力的だ。それに声もでかい。やっぱり犬民性のちがいだろうか。
 じつは僕は、犬が苦手である。子どものころ、戸数は少なかったけれど新聞配達をしていた時期があった。数軒の家に凶暴な犬がいて、ずいぶん悩まされた。将来他人の家を訪問する仕事にだけはぜったい就くまいと、固く決意したのはそのときだった。
 ここらの犬も、堅気の人間にかまわないでくれればいいのだが、何かのひょうしにかかわりを持つと、彼らは強力な武器を持っている(かもしれない)ので気をつけないといけない。そう、狂犬病
 夜になると、元気な咆哮があちこちから聞こえる。とりあえず夜は要注意だ。猫の僕としては、暗闇の犬ほど怖いものはない。(-_-#)
(photo:これでも現役である)