What's 世界遺産?(その1)

 やってきたのは小さなワゴン車だった。乗っていたのは、ドライバーとガイド、それにガイド見習いのような男。その3人の若者に案内される客は、僕と連れ合いの2人だけだった。
 てっきり、エアコンのきいた大型バスで、悠々快適に旅するものと思っていた。しかし、これでは誘拐された中年ジャパニーズのようだ。お金はもってないけれど。
 彼らは、中国の最新ヒット曲CDをガンガンかけながら、鼻歌まじりで高速道路を南へととばした。つけ加えれば、エアコンもガンガンだった。さむ。
 連れ合いが、陣中見舞いに来るというので、数日前、ユネスコ世界遺産である「福建土楼」の日帰りツアーに申しこんだ。学校の中国人スタッフの家族が経営する旅行社主催の企画である。
 福建土楼も広範囲にちらばっており、いろいろなコースが組まれ、毎週のようにツアーがでている。ほんとうなら参加者2名のツアーなど中止のはずだろうが、おそらくとくべつな計らいだったのだろう。なので、文句はいうまい。
 今日の目的地は南靖土楼群というところ。いくつかの村々をまわる。S市から片道3時間半の行程だ。
 村々へとつうじる幹線道路の入り口には、関所のように厳重なチケットゲートがあった。そこでは、制服を着た役人が待ちかまえていた。
 けっこう検問がきびしい。紛争地帯ではないのだから、笑顔のひとつもあってしかるべきではないか。といいたかったが、か〜っペッ、と痰をはかれてもこまるのでだまっていた。
 土楼というのは、おおざっぱにいえば、客家(はっか)の人たちが建てて住む、城塞のような共同住宅である。外壁を土でかためた、一族郎党がいっしょに暮らす円形や方形の巨大な住居。チャウ・シンチーの映画『カンフーハッスル』でも重要な舞台となっていたアレである。
 ところで、客家というのは、こちらも荒っぽくいえば、客家方言を話す人たちのことである。彼らはもちろん漢民族の支流であるが、たいへん結束力がつよく、過酷な環境や外敵からみずからを守るために土楼を生みだしたのである。
 さて、その土楼の村であるが、僕は日本の世界遺産五箇山を思いだしてしまった。(この項つづく)(*_*)
(photo:有名な撮影ポイントから。日が高いのでベタである)