理由あり。しかし、

 日本にとって中国は、ある種とくべつな国である。日本人にとって、といいかえてもいい。
 歴史的にみれば “兄貴” のような国であり、とくに近年はその兄貴にすこぶる迷惑をかけてしまった。迷惑どころではない。太っ腹な兄貴も、そのことだけは忘れない。
 僕は、“兄貴” につながる家系をたしかめたかった。そして、兄貴がなにを考え、ほんとうはどれほど怒っているのかも知りたくなった。
 それが中国へやってきた理由である。
 こういうことは、現地の生活者の一員となって、そこからようやくはじまることだと信じている。もちろん本業は工作員ではなく、日本語教師だが。
 でも、なんだか高邁で青臭い背景のような気がして、いくぶん気恥ずかしいので自分には似あわないと思っていた。いや、今でも思っている。
 こっちへ来るまえに、なんで中国なの? と、よくきかれた。これは、相手との親疎の関係や相手の立場、中国にたいするスタンス、そんなことを考えてこたえなければいけなかった。
 まさか連れ合いにたいして、「中華料理が好きだし小姐もきれいだしなぁ〜」というわけにはいかない。あるいは、いいトシしたおとっつぁんが、若者のように熱くかたるわけにもいくまい。
 日本人は、日本と中国のかんけいの深さぐらいは多少なりとも認識していると思うので、それだけに、なんで? という質問をうけると、僕はテキトーにすませることができなくなった。
 それは、日本人の中国(人)にたいする複雑な感情に起因するのかもしれない。近いからなおのこと。愛憎なかばのような感情もうかがえる。
 アメリカならどうだろうか。ジンバブエだったら……これはべつの意味で、なんで? だろうけど。
 そして、なんでにこたえてきた自分が今、なんで? に立ちかえっている。
 F建省というサンプルが適切なのかどうかはわからない。少なくとも、「飯はうまかったし小姐もきれいだったよ〜」が、自分へのこたえにならないよう注意しないといけない。(^_^;
(photo:関帝廟はいつも賑わっている)