貴州の3人娘

 貴州省ときいて、おおそうか、とうなずく日本人はきわめて少ないと思う。
 地理的には、知名度の高い四川省の南東である。日本のお笑い芸人が、自分の出身地の田舎度を笑いネタにするような、そんな地域かもしれない。
 実際データによれば、中国の行政区分(省・自治区直轄市)のなかでも、もっとも所得が低く開発がおくれている地域のひとつである。
 そんな貴州くんだりから、僕たちの日本語学校へやってきた3人娘がいる。
 私立の学校に入学するわけだから、けっして貧乏ではない。きくところによると、3人のうちのひとりのおじいさんが学費を出してくれたらしい。
 そのおじいさんは、上海で会社を経営する総経理(社長)である。日本とのかんけいも深いので、どうやら3人は、おじいさんに送りこまれたようだ。
 上海にはいろいろな日本語学校があって選択肢も多いはずだが、どうしてわざわざS市のこの学校にきたのかはわからない。なにかコネクションや事情があってのことなのだろう。
 それはいい。しかし、その3人娘がなかなか学習のレールにのってくれないのである。
 じつは、彼女たちは2日おくれで、この夏期コースに入学してきたのである。上海からの列車の切符がとれなかったというが、どうやらギリギリまで上海で遊んでいたらしい。
 むりもない。貴州と上海である。
 2日間のおくれは、収穫が終わったあとのようだったにちがいない。ひらがなとカタカナを全部やってしまったのである。補習はするが、果実を得るのは本人たちの努力しだいだ。しかし、逃げ水のように、先行グループとの差がちぢまらない。むしろ開くいっぽうである。
 おじいさんのむくろみはとてもよく理解できるので、僕たち教師陣も彼女らをいっぱしの日本語話者に育てあげるべくいろいろもくろむのだが、青い果実はじっと待つのみなのか。月に代わっておしおきしてもムダのようだ。
 この学校には、それぞれの事情をかかえた学生が入ってくる。できる者や目的をもった学生は、基礎を身につけるとさっさと留学したり、大学に移ったりするが、彼女たちのようにじっくり腰をおちつけてここで学ぶ学生たちは、経営的にはいいお客さんである。
 そんな学生たちを仕上げて世に送りだせば、学校の株もあがるのである。そうすると、くだんのおじいさんからも特別賞与が出る。なんてことは、たぶんないだろうが。(^_^)
(photo:暑い夜をぶっ飛ばせ! 踊るおばさんたち)