夜の侵入者

 子どものころ、夏になるとよく「虫」を捕った。虫というのは、おもにクワガタやカブトムシのことだ。
 僕の家はむかしながらの集落に属していて、その集落の入り口に小さな神社があった。今は少し様子がかわってしまったが、そのころは社を守るように木々が森をつくっていた。
 そこは、虫たちが育つ絶好の環境だったのだろう。集落のガキッチョたちはきそって虫を捕りにやってきた。ところが、虫を捕るコツというかテクニックがあるのだろうか。どうしても捕獲量に圧倒的な差ができるのである。
 なにも捕獲数をきそうこともないではないか。と、今は思うが、そこはやはりガキの心理だったのだろう。僕はランキングでいえば、いつもかなり上位に位置していたが、どうしても勝てないやつがひとりいた。
 彼は、明け方のいちばん虫が活動する時間帯を熟知していたのにちがいない。それは、まいにち同じ時間帯ではないのである。ときどき、彼より僕の読みがあたったときは小躍りしたもんだが、けっきょくは熱意と努力と根性の差だったのかもしれない。
 しかし、神社に来たときの、あのカブトムシが飛翔する重厚な羽音……
 そう、昨夜は羽音がきこえた。だけど、あの重厚な羽音とはほど遠い。ブ〜ン、カサカサカサッ。乾いた音だった。目がさめ、暗闇に慣れた目で白い天井を見る。なにか黒いものが動いている。
 また飛んだ。そいつはベッドのうえを横切っていった。電気をつけると、その艶やかな姿態が目にはいった。昆虫にはかわりないが、そいつは人類にけっして愛されることのない一族。
 戦闘は5分で、我がほうが勝利した。しかし、これで宣戦布告のまくが切って落とされたにちがいない。はやいとこ全面戦争の準備である。
 思えば暗示的な夢だったのだ。捕獲してつぎつぎに死んでいった虫たち。大量虐殺をしてしまった。成仏していないのかもしれない。
 そういえばお盆である。すまんすまん。おじさんはとっくに心を入れかえておるのだよ。光るボディをもつ、遠い親戚の部隊をさしむけるのはやめてほしいんだがのう。
 虫供養の寺。なんてものがあったらすぐいきます。今度帰国したらね。(×_×)
(photo:昼下がりの西湖公園。ここもカップルが……)