薬師岳の休日

 薬師岳へ行ってきた。標高は2,926m。立山連峰の南、北アルプス屈指のジャイアントである。深田の百名山にも選定されている。
 薬師岳は、ぼくの地元石川県から近いというのに、どういうわけかこれまで足を向けなかった。
 理由はふたつーー。1泊2日ではかなりハードであり、かといって、山が大きいので2泊3日かければ楽だが、3日かけて登頂1山ではちょっとなぁ〜と、今風にいえばコスパが低いと感じるようなセコい気持ちもあった。
 もうひとつは、登山コースが途中の太郎平というところで分岐して北アルプス奥地の山々へ行けるとあって、ついついそっちを優先してしまった、という理由。
 つまり前者は、コースのバリエーションが組めないので敬遠していた、ということ。後者は、2泊3日あればより魅力的で豊富なコース設定ができる、という理由だった。
 しかし、それらはともに若い体力があって成り立つ話しだった。今では薬師岳を尻目に、2泊3日で雲ノ平や高天原黒部五郎岳をまわるなどというコース設定は、無理のうえに絶対がつくほど不可能な話しになった、いわば夢幻の話しになってしまったのである。
 要するに、昔はそんなことをやっていた、ということだ。ただ歩き回っていたに等しい。
 したがって、今回あらためて太郎平までのコースを歩いてみると、周囲の景色やふんいきがほとんど記憶に残っていなかった、ということがわかった。同行した連れ合いにも笑われた。
 つまるところトシをとった、ということだが、かつてのころのように何が何でも頂上をという気持ちもあまりなく、夏山にひたるだけで至福という境地になってきたので、多面的に山を楽しめるようになったのである。
 実際今回は、2泊3日の薬師岳ピンポイント山行であり、ずいぶん楽な行程だった。
 しかし、3日ともガスか小雨の天気で、薬師の頂上を目指した日も、ガスと本降りの雨で頂上直下の避難小屋跡で引き返した。ぼくが「百名山ハンター」だったら、這ってでも頂上を目指しただろうが、さすがに悪天候を楽しむ自虐性はない。
 ちょうどお盆休みの時期だったせいもあって、たくさんの人たちが入山していた。とくに今回印象に残ったのは、若者が多かったということである。
 しかも女性の単独行者も少なくなく、登山の裾野の広がりを感じさせた。北アルプスのような、コースや山小屋が整備され、ある程度人が多い山域は女性にとっても安心だろう。
 つい15〜6年ほど前までは、山は老人の憩いの場かと見誤りかねないほど中高年の巣窟であり、ぼくのような者でさえ「若いのに山へ来てえらいね〜」などと年配者からいわれたものである。
 もちろんあいまいな笑いで応じはしたが、「でもあなたより長いこと山をやっていますよ」と心で答えていた。
 まあ、山の世界はとても健全だった、ということである。あ、そうそう、外国人も少なからず見かけるようになった、というのも傾向だろう。
 そして、山小屋で飲むビールは最高だった。ちなみに350ml缶は600円。最近では生ビールのジョッキもあるが、こちらは1杯1,000円だ。(^-^)
(photo:薬師平にて。お花畑と頂上への道)