猫と暮らす(5)

 ソラが少しずつ体力がつき、左目が見えるようになったので猫用のケージを買った。
 できることなら拘束したくはなかったが、家のなかは猫仕様になっていないので、うっかり自由にさせると、悪の限りをつくした。
 それはもちろん人間の都合から見ての悪戯だが、とにかく、テーブルの上といわず茶棚の上といわず、そこにあるものすべてに興味を示し秩序を破壊した。
 人間も対象であるーー。足にまつわりつきじゃれる。そのうち勝手に興奮して爪を立てる。エスカレートすれば、噛む。
 新聞を読んでいれば、裏側から新聞に飛びかかりくしゃくしゃにする。にらめっこをすれば、こちらが一瞬気を抜いたスキに顔に襲いかかる。
 あの、瀕死のガリガリ猫がここまで元気になるとは……などと、もはやのんきなことをいっている場合ではなくなった。家族の手足は引っ掻き傷や噛みつき傷だらけになってしまったのだ。
 我が家は大家族時代の名残で空間も多く、猫にとっての十分な行動エリアは確保できるが、行動が予測不可能なので自由スペースを限定しなければ、家のなかは大変なことになってしまう。
 ときどき外に連れ出すと、ソラは未知の世界に興奮し腕のなかで暴れる。刺激的でバラ色の世界が広がって見えたのだろう。
 しかし外の世界は誘惑と危険に満ちている。
 周りは田園地帯の風景こそまだ残っているが、車の往来も激しく、田畑をくぐれば農薬、除草剤に見舞われかねない。
 また、生態系もそこそこ機能している。したがって、小動物、昆虫、カエル、鳥など、誘惑材料には事欠かない。ヘビだって捕獲してくるに違いない。
 ソラの左目は幸いなことに、その後病気の発症はなかった。片眼とは思えないほど、空間把握能力に優れていた。
 ーー秋から初冬にかけて、ソラとの平穏な日々を送った。
 猫が一匹いるだけで家のなかが活気づき、大人だけの生活に味わいと彩りが付加された。毎日毎日、小さな楽しみさえ感じた。
 情が移れば家族同様である。年が明けても(2017年)ソラは順調に大きくなっていった。体重も5kgになっていた。
 しかし、正月が明けてまもなく、状況は一変した。(;O;)
(photo:2016年12月)