ジジイのトシ、ババアのトシ

 カタクリを探しに近くの里山へ行った。ねらい通りたくさん咲いていた。
 桜の時期と重なったこともあって、平日にもかかわらずかなりの人出だった。老人たちは想定内だが、親子連れや孫連れもちらほら見かけた。
 連れ合いとぶらぶら散策していると、うしろから5〜6歳ぐらいの男の子が走ってきて僕たちのそばまでやってきた。
 男の子はじいさんといっしょにやって来たらしく、遠くのほうでじいさんの声がする。少年は走りながら大きな声で、背後のじいさんに向かって返事をする。
 ほほえましい光景だと思って見ていると、少年のことばのなかに「おじいちゃん」と「おばあちゃん」が登場していることに気づいた。
 彼の連れはじいさんひとりのようだが、「おばあちゃん」はいったいどこ? と、いぶかしく思って見回したが、どうやらそれは僕たちのことのようだった。
 つまりこういうことだろう。
 保護者のじいさんは、先行してずんずん行ってしまった孫の安否を心配して少しあわてている。
 孫のほうはじいさんを安心させようと、近くに僕たち(じいさんとばあさん)がいるから大丈夫、ということを伝えたのである。
 少年がためらいもなく僕たちのことを、「じいさんばあさん」と形容したことがとても感慨深かった。彼らのような年頃の子どもから見れば、僕たちはまごうことなくジジイババアである。
 ショック、というより、自分の孫がいない分実感がないだけのことなのだろう。自分を上空から客観的に見ることは、なかなか難しい。
 そういえば、毎朝髭を剃るときは鏡を見るが、顔全体を観察することはない。明日の朝は鏡を見てニッと笑ってみようか。家人がいないことを確かめて。(¨;)
(photo:今年のカタクリ