日本の食べ物についてどう思うか

 「どうしても納豆は食べられないのですが……」
 と、外国人の日本語学習者が困惑顔をしていった。
 よく日本人に、「納豆食べたか?」とか「どうして納豆を食べないのか?」とか「納豆の匂いがダメなのか?」……などと聞かれる、というのである。
 「日本人はそんなに納豆が好きなのですか?」
 当人はいささか閉口気味に、そう付け加えた。
 たしかに僕も、「刺身は大丈夫か?」「寿司は食べたか?」「天ぷらはうまいだろう」「蕎麦はどうだ?」……などと軽いノリで聞いてしまう。
 しかしそれは、日本語授業のなかでの会話ネタがほとんどである。とはいえ、周囲の日本人からことあるごとにそんなことを聞かれるのもうんざりだろう。
 もちろん、聞く側の日本人に悪意があるわけではない。「日本の味」を認め、評価してくれるのを期待しているだけである。でもどうしてそんなに、評価を求めるのだろうか。
 我々は、カタコトの日本語を話す外国人に対しておおげさに驚き、大賛辞を送ってしまう傾向がある。当の外国人が困惑するほどに……。
 日本の文化を理解してくれてうれしい、という気持ちよりも、自分たち(日本人)を認めてくれて、外国人も自分たちと同じなんだ、ということを確認できたよろこびなのだと思う。
 納豆についていえば、僕も連れ合いにしつこく勧められるまで、あの匂いがまったくダメなくちだった。そんなんだから、納豆に目覚めたのは20代も終わりのころだった。
 連れ合いは、「日本人なら納豆ぐらい食べろ」とはいわなかったが、僕が食わず嫌いだったことは確かである。
 そしてその後の人生が納豆によって豊かになった、といえばちょっとおおげさだけどね。
 まあ最近は、日本語の授業では、和食ネタであまりしつこく追求しないことにしている。無理して納豆を食べることはないし、刺身が食べられなくて当然である。
 自分の経験からいえば、外国に行って、一般的なその国の料理の評価や感想をあれこれ求められた記憶があまりない。一過性の旅行ならそれも当然かもしれないが……。
 しかし、特殊な食文化の現地の人に、「ヘビはもう食べたか?」「ネズミは絶品だ」「ゴキブリの唐揚げをごちそうするぞ」「イモムシはビールに合うぜ」……などと勧められても困るからなぁ。(¨;)
(photo:アカツメクサ。キゴ山にて)