雨竜沼ワンデイ

 雨竜沼へはレンタカーを借りて行くことにした。タクシー以外の交通機関がないので、これが一番いい方法だった。
 札幌でナビに目的地を入力すると、登山口まで3時間と表示された。しかし、所要約120kmでこのタイムは、???である。しかも、そのうち80kmぐらいは高速道路を走るのである。もしかしたら、高速を降りて登山口までは、相当な悪路なのか……。
 そんな一抹の不安をかかえながら、札幌から道央自動車道を北上、滝川インターで降りて増毛山塊方面へ西進した。
 ところが、林道に入ってからも道は立派なものだった。所どころ未舗装区間はあったが、手に汗握るような箇所は皆無だった。
 結局、2時間ちょいで到着。とくべつ飛ばしたわけでもなかった。高速ではちゃんと休憩もした。ナビの気まぐれだったのか。
 登山口の管理事務所で、入山料(1人500円)と登山届けを出して歩きはじめた。しばらくは林道の延長を歩く、ペンケペタン川沿いののんびりしたコースだ。しかし、ガスが立ちこめているので視界はあまりない。
 10分ほどで最初の吊り橋。渡ると本格的な山道となり、まもなく2番目の吊り橋があらわれた。これを渡ると、道は急登となった。
 日本列島の猛暑は北海道までやってきていて、2〜3日前から道産子もへばる蒸し暑さとなっている。北海道の涼を期待していたのが、暑さを引き連れてきたようなかっこうだ。
 沢沿いの道は風が通らず、まるで北陸の夏の低山のような蒸し暑さだ。完全に想定外であった。
 しかしまあ今日は、雨竜沼をぐるりと回っての日帰りだから、体力的にはさほどきつくないハズである。行程距離は多少あるが、高度差は約300mである。
 道は、沢の勾配に合わせて高度をかせぐような感じだ。急登を過ぎるころガスが途切れだした。対岸はダケカンバの疎林である。
 やがてササと灌木の道となり、標高約850m、湿原の東端に出た。ガスが晴れて青空さえ見える。さっきまでのベトつく暑さがウソのように、爽やかな風が汗をうばう。
 敷設された木道を歩き出すと、広大な雨竜沼湿原が姿をあらわした。東西約2km、南北約1km、面積約102haの開放感はばつぐん。周囲はなだらかな山なので、高原のようなふんいきである。
 前方に南暑寒別岳(1296m)、その右奥には山塊の主峰、暑寒別岳(1492m)がなだらかな山容を見せている。主峰を越えれば増毛に出ることができるが、山中に宿泊施設はなくとてもハードなコースとなる。
 今回はせめて南暑寒別岳往復を、と思っていたが、往復行程が15〜16kmと、こちらのほうもかなりきつくなるので、余裕をみて湿原往復とした。
 今年の冬は厳しかったらしく、今の時期はまだミズバショウが盛りだった。ザゼンソウもよく見られたが、ゼンテイカワタスゲコウホネなど、湿性植物はこれからの様子だった。
 雪解けが終わったばかりのような、まだ緑浅い湿原は、短い夏がはじまったばかりのようである。
 いつのまにか湿原の西端まで歩いた。そこから南暑寒別へ向かう道が分岐している。途中に湿原の展望台があるのでそこまで登ってみたが、まとわりつく大量の蚊と虫に閉口して、そそくさと引き返してきた。北の夏の吸血昆虫たちはどう猛だった。
 湿原は、時計回りの周回コースとなっている。ハイカーの姿はまばらで、尾瀬のように木道が混雑することもなかった。
 平坦な道だが、距離があるので足に少し疲れを感じはじめたころ、湿原の東端にもどってきた。
 雨竜沼に別れを告げて、朝登ってきたペンケペタン川沿いの道を下った。蒸し蒸しする樹林帯はあいかわらずだったが、ふとヒグマのことを思い出した。
 あまり遭遇したくない相手だが、北海道では常に意識しておかないといけない。すっかり忘れていた。(^_^)
(photo:前回同様、雨竜沼にて)