北欧の夏

 今どき「ペンパル」ということばを知っている人も少ないだろう。文通友だちのことであるが、もう死語といってもよさそうだ。
 学生時代ひょんなきっかけから、フィンランドの女性としばらく文通をしていた。たしか少し年下だったような気がする。
 もちろん英語での手紙のやりとりなので、苦心惨憺して書いていた。むこうも母語は英語ではなくフィンランド語だが、英語の実力は圧倒的に彼女のほうが勝っていた。だから、苦労して書いた手紙の返事はまたたく間にやってきたので、常にプレッシャーを感じていた。
 そんな交流が2年ほどつづいた記憶がある。でも、おそらく僕の怠慢が原因で、文通はしだいに自然消滅した。
 すまないと思っている。そんないいかげんな日本人は僕だけだよ、と、日本人を代表してできることなら一度あやまりたいと思っていた。
 で、あれからやがて40年、おわびに来たわけではないが、僕は今フィンランドにいる。連れ合いとの約束で、しばらくヨーロッパに滞在するのである。
 昨日ヘルシンキ国際空港で関空からのフィンランド航空便から降りると、ほとんどの乗客が乗り継ぎゲートに消えていった。ここをハブにしてヨーロッパ各国に向かうためだろう。
 ほんとうにさみしいくらいの入国審査だった。しかし、はじめてヨーロッパに来て、いきなりフィンランド訪問というケースも珍しいのかもしれない。
 ヘルシンキは強い日差しだった。といってもそこは北緯60度の北欧、夏とはいえ太陽が頭上から照りつけるような感じはない。
 しかし、空気が澄んでいるのだろうか、あるいは紫外線が強いのか、外気に透明感があり酸素濃度が高いような気がするのである。
 気温は日中が10度台前半で、日陰や風が吹いたりすると寒い。日なたで少し歩くと汗ばむので、人々の姿はTシャツからコートまで季節がごちゃごちゃである。
 そして、朝晩は一ケタ台まで気温が下がる。でも夜は短く、午後11時ごろまで明るい。
 フィンランド人はシャイで、日本人に気質が似ているといわれている。そういえば、フィンランド語の基本文法は日本語と同じSOV(主語+目的語+述語)である。
 かつての文通相手の女性が、どんな人生を歩んでいるのか知るよしもないが、記憶の底にストックされていたフィンランドという国が、ようやく目の前にあらわれたのである。(O_O)
(photo:ヘルシンキにて)