アイデアの行方

 それで、泉州へ行ってどうだったんだ、ということを書いておかなければいけないのだった。
 じつは、去年の6月に泉州の学校へ赴任してからしばらくすると、ふと泉州に関連したあるテーマを思いついた。そのときは、人がいないことを確認して、ヒヒと笑いニンマリした記憶がある。小躍りはしなかったが。
 それで休日を利用して、そのテーマに沿った情報を収集しようと思い、訪問地をリストアップし計画を立てた。
 最初のうちは、地元の事情もよくわからなかったので、学生に協力してもらったりして出かけた。しかし、そのうち慣れてくると自分で行動できるようになった。
 そうなると今度は、学生たちがおもしろがって付いてくるようになった。どちらかというと地図が読めない連中だったので、怪しげな外国人教師といっしょになって右往左往したこともあった。
 ところが困ったことに、彼らと出かけることが楽しくて、いつの間にかそれが目的になってしまったきらいがあった。まあ、好々爺はとても癒されたのだが。
 それはそれで、まぎれもなく貴重なものだった。しかし、自分が作ったテーマは本気だったのだろうか、何かカタチにするつもりがあるのだろうかと、泉州をはなれても、納豆が糸をひくようにずっと考えていた。本気モードなら、もっと情報や資料が必要なのである。
 泉州で仕事して生活するという、つまり泉州に軸足がある状態で思いついたアイデアは、はたして泉州からはなれてしまった今でも生きているのだろうか……と。
 そのことを確かめるために、泉州にもどったのである。
 僕は、本を作る仕事をしていた。というか、“過去形” にするつもりはないので、これからも続けていくのである。ただ、出版という仕事では食えないので、ときどき寄り道をしたり道草をしたりしている。
 本にしたい企画やネタはたくさんあるが、そういうものを次々に本にできるわけではなく、実現可能性のレベルごとに分類している。まあ、それが現状である。
 泉州で得たアイデアもそんなひとつだが、泉州の地に再び降り立ってみると、少し上のほうの棚に分類してもよさそうな気がしてきた。少なくとも、ゴミ箱に捨てる必要はないな、と思った。(^^)
(photo:泉州、東湖公園前にて)