重い身体と上海の空気

 人に酔いそうになった。
 外灘に向かう人の波に歩調を合わせて歩いているつもりだったが、ねっとりした外気と人の熱気、騒音のせいで、自分がどこへ行こうとしているのかあやうく忘れそうになった。
 蓄積した旅特有の疲労が、毒気をふくんだ上海の空気に反応して、表出してきたような感じである。
 昨日、麗江から昆明経由で上海に来た。上海から日本へ帰るよりも長いフライトだった。
 暑さからのがれて休養を、と思って麗江で一週間過ごしたが、避暑としゃれ込む高貴な階級の方々のようにはいかず、物珍しい土地をただぼんやりとながめて右往左往していたように思う。やはり出自は隠しがたいものである。
 今日は、質量のある上海の空気が、そのまま肩にのしかかったような重い身体をひきずり、中国語学校へ行った。
 じつは、9月からそこの学校で、今度は学生になるのである。ずいぶんくたびれた、一般的な学生のイメージからはほど遠い、ひねた学生ではある。
 心配ごとを数え上げればきりがない。とにかく、老化した脳細胞が全日制の授業について行けるかどうか。単語が覚えられず、文法は理解できず、宿題に悪戦苦闘することだろう。若いネイティブ老師のあきれ顔が今から目にうかぶ。
 日本語教師を一年間勤めて、日本語で日本語をおしえる「直接法」への疑問と、それを受ける生徒たちの疑問を少しでも解消したくなって、また日本語の深みにはまっていくのである。
 やはり「直接法」でおしえるネイティブ老師と、それを受ける学生の気持ち。その両方が体現できるのである。
 まあ、楽しみではあるが、疲れた身体は上海の得体の知れないエネルギーにたじろぎ、ただ呆然とするのみであった。(@_@;) ※今日の写真はお休みです。