コカナという村

 遠距離恋愛の恋人と久しぶり会ったらずいぶん変わっていた。質素な身なりだった昔にくらべると、ずいぶん派手になったし、化粧も濃くなった。地道な性格だったはずなのに、いつのまにか金回りがよくなり、生活も荒れているように見える。
 さしずめそんなところだろうか、今回の印象は。昨日、カトマンズから南へ車で約30分、ネワール人の村、コカナを再訪したが、その変貌ぶりにはおどろかされた。
 ネワールとは、古くから高度な都市文明をつくりだしてきた、カトマンズ盆地を代表する民族である。
 パタンもバクタプルも彼らがつくってきた。しかし、そんな歴史のあるネワールの文化も、時代とともに少しづつ消えていく。それはいつか日本がたどってきた道と同じだ。
 ところが、祭礼を中心に昔のライフスタイルや習俗が、タイムスリップしたように色濃く残っていたところがあった。それがコカナ村である。
 パタン市在住のAさんは、そのコカナに10年以上前から入りこみ、写真を撮りつづけていた写真家がである。僕は、そのAさんと9年前に知り合った。彼が撮りだめしてあったコカナの写真を見たときのおどろきは今も忘れない。
 それ以来、僕もコカナに魅せられ、ついには一冊の本にしてしまった。もちろん僕は出版社としてプロデュースする側だったが、時間と資金と情熱をそそいでつくりあげた本は、いかんせんあまり一般向けとはいえず、大量の在庫をかかえてしまった。
 まあ在庫はさておき、本のなかには、今の日本人が忘れてしまった、なつかしい記憶が蘇るさまざまなシーンをみつけることができるのである。
 Aさんと、コカナ出身の高校教師Mさんの案内で集落内を散歩した。変わってしまった風景は、旅行者の目には痛々しいが、地元の人々にとっては近代人の一員となったことの証だろう。
 バイクが増え、若者は町へ出て行く。菜種油の生産で栄え、農業で生きてきたかつての集落も、少しづつ崩壊の危機が迫っている。
 その一方で変わらない風景もある。人なつっこい笑顔や、年配者の昔ながらのライフスタイルである。しかし、観光客が徐々に入りこむようになった近年、素朴な人々の笑顔はいつまで見ることができるのか、不安である。
 AさんもMさんも、そのことにはとても心を痛めている。でもそれはもう止められないことなのだろう。集落の裏手にひろがる広大な農地を眺めていると、そんな杞憂も少しは晴れるのだが……。(-.-#)
 ※文中の本はこちらを参照ください。
  http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-902750-06-5.html
(photo:コカナの風景)