定番のお話

 およそどこの学校にでもあるのが、怪談話しである。
 ここの日本語学校にも、もちろんある。校舎が古いので、その手の話しも、さもありなんという感じだ。建物は元々学校仕様ではなく、汎用的な賃貸物件である。以前は、ある民間会社が使っていた。
 いつごろ建ったのかはわからない。付近の建築物と同程度のくたびれ具合だから、30〜40年前ってところだろうか。だから、もうあちこちが傷んでいる。とくにひどいのがトイレ。さすがにあのオープンスタイルではないが、アレよりはマシという程度である。
 やっぱりそのトイレに出るのである。夜は暗いし、しかも陰気だから連中も住みやすいのかもしれない。各階の廊下のつきあたりにトイレはあるのだが、その廊下も徘徊するらしい。
 まことしやかに、見たといって、恐怖におののく学生も何人かいるので、すっかり現実味をおびてしまった。まあたしかに、夜の学校のトイレには行きたくない。
 そんな怪談話しをきいて僕は笑ってしまったが、笑いがふっと、凍りついてしまった。
 一ヶ月ほど前、僕は仕事がおそくなって、夕方というか、ほぼ夜まで教員室にひとり残っていた。
 その日はとくべつ体調は悪くなかったのだが、テストの採点をしているとしだいに寒気がしてきて、風邪をひきそうなパターンになりかけた。でも、寮へ帰ってシャワーを浴びると、風邪のことなどすっかり忘れて、チンタオビールを開けていた。
 学校の、トイレとは反対側の廊下の延長に教員室があり、古参の先生は、この部屋も彼らの通り道らしい、というのである。ひぇ〜!
 以前入っていた会社の社員が、例のトイレの付近で自殺した、というのがこの戦慄の元ネタなのであるが、当然噂にすぎない。
 女子は怖がってはいるが、そのくせ夜までよく教室でDVDを観ている。大好きなのは、もちろんホラーである。(*_*)
(photo:九仙山の岩屋にて。シュール?)