監視付きの博物館

 40年ほど前まで、我が家は茅葺きの家だった。家のなかに広い土間がある、典型的な農家造りだった。
 集落内にも、そんな茅葺き農家がかなり残っていたが、豊かになるにつれて現代住宅に姿を変えていった。
 茅を葺きなおす職人が減ってきた、という事情もあるが、近代化へのあこがれとコンプレックスのようなものが、おそらく作用していたのだろうと思われる。近所にも負けたくないからね。
 そんな昔の家への郷愁のようなものが、歳をかさねるごとに強くなっていくのを感じる。郷愁といってしまうとあまりにも感傷的だが、仕様や機能面から考えても、ずいぶん早まったことをしたのではないかと思っている。
 それが、僕が古い建築物に惹かれる原点かもしれない。
 このS市は古い建物の宝庫である。休みのたびに、あちこちの通りをながめて歩いても、飽きることがない。そして、ときどきは郊外にも足をのばす。
 挫折したことは、やっぱり克服しておかないと寝覚めが悪い。あれから2カ月半、ようやくリベンジの日がきた。今度こそは “アンタッチャブル・ゾーン” には近づくまい(7月19日の記事参照)。「蔡氏古民居」再訪。
 そんなわけで、今度はかんたんに現地に到着した。中秋節連休なんだけど、見物客は皆無に近い。受付のおじさんが笛の練習をしていた。けっこう上手だ。しかし、のどかだ。
 どんよりと重い空のもと、僕は清朝末期の閩南建築群を見てまわった。村全体が博物館になっているが、現在も人が生活している。とはいうものの、人の気配がない。洗濯物がしっかり干してあるから人はいるはずだが。
 しかし、配慮というものがないのかい。ここは観光客が入り込むんだぜ。ハデなアレやコレはなんとかならんのかい。と思っていると、また犬だ。わかった、わかった、すぐ行くよ。断っておくが、そんなものに興味はないからな。
 ふぅ〜。広場の石のベンチで休んでいると、3匹の犬に遠巻きにされた。監視かい? 犬にもみ手で案内しろとはいわないが、昼飯分ほどの入場料を払っているんだから、ちっとは接客マナーをおしえておいてもらいたい。
 中国では急速に近代化が進んでいる。町の古い建物もどんどん壊されていく。古いものがすべていいわけではないが……と、うまくまとめようとしたが、連れ合いの顔が浮かんだ。
 もちろんケースバイケースです、ハイ。(^^ゞ
(photo:壁に魅せられる)