面子の代償

 成り行きというのはおそろしいものだ。成り行きで結婚したり、成り行きでタレントになったり、成り行きで大金持ちになった、なんていう話しをときどききくが、僕もこのまえ、成り行きでレストランへ行ってしまった。
 う〜む、べつにたいした成り行きではないな。でも、多少は意味ある成り行きだったのである。
 その一週間ほどまえ、午前の授業のおわりに学生たちに、どこか麺のうまい店を知っているか、ときいた。じゃあ先生つれて行ってあげる、といわれて5人グループについて行った。
 そのまま5人と、いろいろな料理をつつきながら昼ごはんを食べた。で、ここはやはり立場上支払いをしないといけないな、と思っていたが、ひとりの学生がいつのまにかすばやく支払いを済ませていた。もちろん、それは困ると、中国人のように主張したが迫力はなく、問題にもされず押し切られてしまった。
 いつだったか、中国人の友人にいわれたことがある。ワリカンなんてぜったいしない、と。ワリカンをいいだすやつなどとは、以後いっしょに飯など食うものか、とまで。なかなかきっぱりした考えだ。「面子」の思想が背後にあるのはまちがひない。
 それを思いだして、その場はすぐ引き下がった。しかし、我が方も先生としての「面子」が……。
 とはいえ、その5人にお返しのつもりでおごるのも、どうもぐあいがわるい。で、打開策として、担任の許可をえて、クラス全員で食事会をすることにした。先輩のY先生にも、スポンサーとして加わってもらうことにした。
 その晩は、地元の古い建物を利用した、アンティークな店をえらんだ。ふんいきがよくて、ちょっと高級な感じもするので、以前から一度行きたいと思っていた。
 ところがそこは、ちょっと高級どころではなかった。かなり高級だった。店の広い厨房に、海の食材がわんさか泳いでいたり、あらゆる肉、野菜が市場のように準備されていた。つまりメニューがない。
 それに動じず、これとこれを刺身に、それから、その肉とその肉にてきとうな野菜をまぜて炒めてくれ。などといえれば世話はない。幸い、学生のなかに料理にくわしい男の子がいて、テキパキと発注してくれた。
 あとはほとんど宴会になり、自分の娘や息子世代の若者たちと楽しいひとときをすごした(写真参照)。
 しかし、その代償は大きかった。ほろ酔いの上機嫌で支払いに向かうと、予想をはるかにこえる金額を提示された。少しボラれたかな。もちろんY先生とワリカンした。
 帰りの足どりは軽かったが、財布も軽かった。(^_^)