よれよれ琵琶湖周回(びわイチ)

 「面の皮が厚い」とはよくいうが、僕には縁遠い話しである。もちろんそれは自己評価だ。しかし、できればそう思われたくはない。
 「尻の皮が厚い」などということばは使わないが、そうなりたいとときどき思う。自転車で少し距離を走ったときなどは強く思う。
 ーー琵琶湖を一周してきた。
 へぇ〜、と思われるかもしれない。でも、じつのところ「へぇ〜」どころか「ふ〜ん」なのである。
 「日帰り?」
 「とんでもない、ムリムリ……」
 「で、今日はどこまで?」
 「堅田です」
 「カタダ?!」(声が裏返る)
 チャリで琵琶湖1周、2泊3日でまわる計画を立てた。約160km(または約200km)。専用道もかなり整備されているが、湖周の一般道や峠越えも行程にふくまれる。
 ロードタイプの自転車を操る連中の多くは、日帰りで周回する。あのピチピチのウエアに身を固めた人たちである。
 彼らは上級者。僕にとっては100億光年ぐらい先の鉄人たちである。日帰りだからほとんど空身で、飛ぶように走り去る。
 1泊2日、というところが、中級者を中心としたボリュームゾーンらしい。自分で着替え等の荷物を背負って走るか、搬送車に荷物を運んでもらう。
 そして2泊3日。初心者コースだ。前出の会話は、スタート地点に選んだ、近江今津自転車屋の主人とのやりとりである。
 なぜ自転車屋のやっかいになったか詳細は省くが、彼は僕たち(with連れ合い)が沿線観光しながら周回すると思ったようだ。
 しかし、とんでもない。マジでガチである。2日目は長浜まで。3日目に近江今津にもどる計画である。1日の走行は、だいたい50〜55km。
 3日かける理由がもうひとつ。重い荷物を背負って、あるいは、自転車にくくりつけて走りたくはなかった。
 それで、まずは自転車でその日の宿まで走りそこに自転車を置く。電車に乗ってその日のスタート地点までとって返す。そして、駐車しておいたクルマに乗って宿までもどる。
 という大作戦なので、都合琵琶湖を3周することになるのである。それぞれルートはちがえど、一粒で3度おいしいのだ。
 だから、午後2時ごろまでには次の宿に入らないと、計画を完遂できない。従って、観光する余裕はないのである。
 実際、2泊3日が適当だった。我々の尻が持たないのである。毎日終盤はサドルから尻をずらしたり浮かしたり、まるで中坊がふざけて運転しているような恰好だった(ハズだ)。
 ーーいつも車窓からながめるだけだった琵琶湖は、その懐に入ればじつに様々な表情を持っていた。とりわけ奥琵琶湖(北部)の自然は豊かだ。
 その奥琵琶湖の峠で、細身のロードレーサーに乗った青年とことばを交わした。彼は、今朝大阪を出て小浜まで往復する、といった。
 「で、1泊ですか?」
 「いえ、日帰りです」
 青年はさらりとそういうと、音もなくETのように走り去った。往復330km走るらしい。
 ないわ〜。僕たちはことばを忘れ口を開けて、呆然と彼を見送ったのだ。(^_^;)
(photo:上から、白髭神社琵琶湖大橋から、奥琵琶湖にて)